reportレポート
対談
環境と農業──ソーラーシェアリングは問題解決の糸口になる
小規模でも、ラクで楽しい農業を広げて行きたい
Yae 私は、鴨川自然王国で地元のJAさんたちとも協力し合いながら、農家さんを増やそうとしているんですが、なかなかうまくいかないんです。「田舎のヒロインズ」でも担い手不足には苦労していて、農地はたくさん余っています。新規就農した若い人たちにお願いしたくても「そんなにたくさんはできないよ」って状況になっているんですね。
そんな中で、主人の友人が呼びかけ人として参加する「小規模・家族農業ネットワークジャパン(SFFNJ)」(※5)が立ち上がったんです。私自身も賛同者として名を連ねていますが、そのつながりの中で、世界の8割の食料を小規模・家族農業が支えているという実態も知りました。みんなが一反耕せば、それが集まって大きな力になる……規模は小さければ小さいほどリスクも少なくなりますから、私たち鴨川自然王国も、(規模を)大きくしていく農業より、そんな、みんなができる農業を広めて行きたいんです。だからこそ、ソーラーシェアリングもやる意味があると感じています。今回パネル下では、ブルーベリーの栽培を予定していますが、経験から、7〜9月ごろの収穫時に天候が良すぎると、作業時に暑いことこの上ないのもよくわかっています。日陰があるのは、とってもラクなんですね。千葉はとっても豊かな土地で、お米はもちろん、ブルーベリーだけじゃなく、キウイやイチジクなどの果樹をはじめ、年中様々な作物を栽培できます。その豊かさを活かした農業をやるにも、労力は少ないに越したことはないんですよ。ソーラーシェアリングによるブルーベリー栽培については、収穫したものを販売して利益を出そうというよりは、観光農業的なものとして活用したいと思っています。都会の人たちが森に入って、ビールを飲んでゆったり過ごして、ストレスを発散する……農作業を通して、自然や土に触れる機会作りはもちろんですが、極端な話、農作業はしなくてもいいから、楽しい時間を過ごしてもらえればいいかな、と。自然農法であっても、苦しい農業の時代は終わりで、ラクで楽しい農業にシフトして行きたい。小規模であれば、それもできると思っています。
ソーラーシェアリングの
これからについて
辻井 僕自身は気候変動の枠組みで捉えた時に、ソーラーシェアリングは理にかなっていると思うし、世界の潮流から見ても、そもそも化石燃料に投資するよりはソーラーシェアリングに投資する方が合理的だと思っています。ソーラーシェアリングについて色々ネガティブな話題が聞こえてくるのも、「過渡期」の証だと思うんです。先日金融の専門家とお話ししていて初めて知ったんですが、銀行もできてから10年くらいはまともに機能しなかったそうです。ソーラーシェアリングもこれから淘汰が進んで、環境問題や農業問題を解決するためのメジャーな手法になって欲しいと思いますね。
Yae 私は、ソーラーシェアリングって、農業を続けていくための一つの手段だと思うんです。先ほども言いましたが、ラクで楽しい、開かれた農業をもっと広げるためにも、売電収入のサポートは有効だし、やりたい人がもっと増えてほしい。そして、得られた利益やノウハウは、地域に還元されていくということも、伝えていきたいと思います。
※5【小規模・家族農業ネットワークジャパン(SFFNJ)】……持続可能な農業の実現のために最も効率的である「小規模・家族農業(=農業労働力の過半を、家族労働者が占めている農林漁業)」へのパラダイムシフトを目指して、日本および世界で小規模・家族農業の役割と可能性を再評価し、小規模・家族農業を農業・食料政策の中心に位置づけることを求める、個人および団体のネットワーク(2017年6月設立)。
Profile
Yaeさん
1975年東京生まれ。故藤本敏夫、歌手加藤登紀子の次女。1995年、音楽劇『コルチャック先生』で女優デビュー、2001年より歌手およびシンガーソングライターとして活動開始。2005年より拠点を父・敏夫が創設した『鴨川自然王国』へと移し、半農半歌手としてユニークな活動を続ける。
辻井隆行さん
1968年東京生まれ。早稲田大学卒業後、大手自動車関連会社勤務を経て、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程(地球社会論)修了。アウトドアスポーツに魅了され、国内外を回る。現在は、米国のアウトドアブランド、パタゴニア日本支社長。新しい資本主義のあり方を模索しつつ、自然に親しむ生活を送る。
photo: Kazunobu Kataoka(wacca)
text: Moriyuki Hatayama(partisan)
出典:EARTH JOURNAL(アースジャーナル)vol.06 2018年
販売サイト(https://earthjournal.jp/information/33791/)