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取材

ソーラーシェアリングをツールにしてみんなの笑顔を作っていく

ソーラーシェアリングをツールにしてみんなの笑顔を作っていく

庫県宝塚市西谷地区は、すでに6ヶ所が稼働中で、さらに2ヶ所が建設中(取材時)という、全国でもトップクラスのまさに「ソーラーシェアリング先進地域」だ。地域住民を主体として、行政や教育、企業をも巻き込み発展を続けてきた当地の様子を取材した。


こちらは、古家さんが最初に作った自身所有の太陽光発電所。すみれ発電の第1号のすぐ隣にある。

非常用電源として機能する外部電源もそなえている


古家さん宅の敷地内には、宝塚すみれ発電が最初に手がけた11.16kW の市民発電所第1号がある。市民が出資して全てが手作り(2012年12月完成)。

一度シンポジウムの会場で名刺を交換して以来、3年ぶりに益尾さんにメールを入れた井上さん。「そろそろ何かご一緒できませんか?」……奇しくもコープこうべで、地域からの電気買取を検討、実行に移そうとしている矢先だったそう。
地域には浸透していない大きな成果と、存在する「壁」

谷地区は、宝塚駅のある市街地から車でわずかに20分ほどという距離にありながら、典型的な里山風景が広がり、人口2500人、高齢化も進むいわば日本の中山間地の農村そのものといった趣だ。しかし約3年という短期間で都合8カ所ものソーラーシェアリングが建設され、すでに風景の中に溶け込んで見えるほどシェアリングの設備が当たり前のものに見える。

こうした成果をあげる取り組みの中心となったのが、宝塚市で生まれ育った株式会社宝塚すみれ発電の代表取締役井上保子さんと、地元農家であり西谷ソーラーシェアリング協会の代表理事である古家義高さんだ。そんなお二人に「地域主導のソーラーシェアリング」成功の秘訣をお聞きしようと、勢い込んで取材を申し込んだ。ところが開口一番、古家さんが発した言葉は、予想外のものだった。

「結論から言うと、地域には全然浸透してませんね。いくら説明しても納得してもらえないんですわ」──そこには日本の農村地域で活性化に取り組む人からよく耳にする、合意形成の難しさがあった。

「約3年前に1号機ができてから、協会も立ち上げ、宣伝もして回ったけど、誰も乗ってこなかったんです。結局は地元住民ではありますが、建設に関わったのは私の親族や友人だけです」(古家さん)。

もともと古くから地域集落として結束も固く、高齢化が進んでいるとはいえ経済的にも裕福な農家が多いこの地では、現状を大きく変えて新しい事業に取り組むという気風に乏しいらしい。

 「宝塚市全体を見ても、ソーラーシェアリングに対する理解は深まっているとは言えません。西谷地区での取り組みは、もともと地域外の人間である私が古家さんにお声がけして始まったものですが、そんな中でも現に8ヶ所もの施設が完成しているのは、大きな成果だと思っています」(井上さん)。

確かに古家さんの関係者ばかりだとはいえ、自然との共生を目指し、再生可能エネルギーで地域を活性化しようという井上さんや古家さんの志に賛同したのは、れっきとした地域住民でもあるのだ。そして、そんな課題も見えるこの地の取り組みには、ポジティブな変化もちゃんとある。

組合員169万世帯を抱える生活協同組合「コープこうべ」が運営する新電力「コープでんき」が、この10月から西谷地区のソーラーシェアリングで発電した電力の買取を始めたのだ。

安全・安心な電気を!組合員の声に押されて

「私たちは日々、安全・安心な食をお届けしています。電力の小売り自由化に伴って電力事業に参入したのは、そもそも生協のミッションが“生活に必要な物資を消費者の方々にお届けする”というもので、そこに電気も含まれるという考えから。しかも、それは組合員さんたちからの『再エネの電気は売ってくれないの?』と言う声に後押しされたものでした」──そう語るのはコープこうべの益尾さん。

「2017年に電力事業を開始しましたが、電源構成は、FIT電気(再生可能エネルギー)30%、天然ガス70%。しかし加入者の増加に伴って、FIT電気30%を維持するためにさらなる調達先が必要になりました。そこで頭に浮かんだのが、井上さんたちが手がける市民発電所。もともと、地域の電力を取り入れたいと言う思いがあって、事業開始の準備段階から、みなさんの活動に注目していたんです」(益尾さん)。

実は益尾さんは農学部の出身で、農業の現場や置かれている状況についても、よく理解しているとのこと。

「耕作放棄地や後継者問題など、西谷地区は日本の農業の縮図のように感じます。こうした地域が元気になるためにも、一次産業がちゃんとお金にならなければならない。農家の持続的な経営を考えたら、ソーラーシェアリングは1つの答え。地域の方々が自然(太陽と土)の恵みを享受してビジネスにし、持続的に経営する。雇用も生まれる、経済が回る。秋祭りが営める。コミュニティが維持できる……それをコープとしても応援して行きたいと思っています」(益尾さん)。


西谷地区に完成している8つのソーラーシェアリング。最近完成したばかりの8号機は、遠くに原発からの巨大な送電線、(写真ではわかりにくいが)隣には他県の事業者が作ったという野立てソーラー発電所があり、ソーラーシェアリングの現状を象徴するようなロケーションになっている。
行政・教育も巻き込んで広がる大きなつながり

谷地区のソーラーシェアリングには、大きな特徴がある。県や市といった行政、そして地元大学との協働といった、住民だけではない“つながり”も進んでいることだ。

宝塚市環境部地域エネルギー課古南さんにも話を伺ってみた。

「ソーラーシェアリングの推進については、主役はあくまでも井上さんや古家さんのような市民の皆さん。私たちは支援しているという立場にすぎません。自治体として様々なバランスを取る必要があり、直接的に活動するには課題も多い現状です。再エネの推進については西谷地区のような活動をさらに広げる取り組みの、スタートから議論にも参加して、支援をステップアップしていけるようにしたいと思っています」(古南さん)。

井上さん、古家さんらの協力を得て、ソーラーシェアリング下の農地で実習を行なっているという甲子園大学栄養学部フードデザイン学科の鎌田教授のお話も伺う。

「私たちの学科では、6次産業化プロデューサー(6段階ある中の、レベル2=一定の指示のもとにある程度の仕事ができる段階)の資格を取れるようになっています。そもそもは私の前任で学長にも就任された川合先生が始められた『食と地域の実践演習』がベースで、この演習では食の6次産業化を実体験するもので、今年は春からしっかり展開させています。例えば、ソーラーシェアリングの下で栽培したサツマイモを使った新しいレシピを学生たちが考え、最終的には商品化、流通することも前提にして“商品開発”を行うのです。ソーラーシェアリングでの農作物栽培は、“発電所のおまけ”みたいな捉え方もされているようで、残念に思っています。育てた食物も環境に優しいとか、おいしくできるといったことの他にも、過剰な光による“熱ストレス”の軽減で、より身体にいい作物ができる可能性が高いんです(※)。そうしたことを、もっと研究もし、一般に広めていくことが必要ですね」(鎌田教授)。

甲子園大学フードデザイン学科の鎌田教授(中央)と実習の様子(右。宝塚ソーラーシェアリング4号機にて)。栽培したサツマイモを使ったオリジナルジャム(左)は、好評を博したそう。
宝塚市環境部地域エネルギー課課長の古南恵司さん(右)と、同係長の石井泰一さん(左)。「宝塚市では、2050年までに再エネ活用率を100%にするという『宝塚エネルギー2050ビジョン』を策定して、その推進に務めています。

育ち始めている新世代 進化は続く

頭で触れた、消極的とも思える言葉を口にした古家さんだが、実は地域の外から若手農家の柴田さんを受け入れ、西谷地区での営農をサポートもしている。

「この西谷地区も、高齢化が進むと、世代交代の時期が必ずやってきます。そのタイミングで後継者を探していても間に合わない。そのためにも柴田さんのような若手農家さんが、もっと入ってこられるようにしたい。そうした“地域活性化のツール”なんですよ、ソーラーシェアリングは」(井上さん)。

脚注:熱ストレス/鎌田教授によると、現在研究によって、作物は夏場の過剰な光を浴びると、そのストレスで野菜がしなびたり、葉緑素が抜けたり、活性酸素が発生して組織を破壊することもあることがわかっているそう。

課題もあるけど、少しずつ確実に、前進はできています

正式に農家となって2年の柴田さんだが、ソーラーシェアリングの下で農薬および化学肥料不使用による多品種の野菜を育て、自ら販売も行い、大手百貨店でも取り扱ってもらえるまでになった。

photo: Hiromi
text: Moriyuki Hatayama(partisan)


出典:EARTH JOURNAL(アースジャーナル)vol.06 2018年
販売サイト(https://earthjournal.jp/information/33791/

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